大学の先生の講義ノート

臨床角帽学概論A

teaching is to learn.

 

授業トラウマ

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昨日の晩、新しい授業のことを考えると眠れなくなりました。

最近実践しているマインドフルネス呼吸法をやってみて、「今ここ」の自分に戻り、さっさと寝てしまおうかとも思ったのですが、思いつくままファンタジーに没頭するのも良いかと思い、二、三時間布団の中で考えていました。

今も時々思い出します。
あの、大教室の、大喧噪の、学生との格闘の授業。
もちろん格闘と言っても、実際に戦ったわけでなく、どちらかと言えば自分との戦いでした…
昨晩の眠りを妨げた不安は、この思い出に源泉があります。

フタを開けたら500人越えの授業だった。

まだ大学で教鞭をとりだした、比較的若かった10年くらい前のことです。
その頃、新しく授業を担当することになったO大学での講義でした。

受講生が多くなりそうだ、ということは事前に聞いていましたし、
数百名を超える受講生の授業を普通に実施している大学も、もちろんあります。
受講生の多い授業を実施するか否かは、大学の設備や規模、体制、学生の状況によると思います。
私が新しく出講することになったO大学では、受講生が○百人(何人か忘れました…)を超えそうな授業は複数開講としたり、抽選にするなど対策していたようです。
私も、200名程度の授業は経験していましたし、科目、内容ともに求められていることに対応できると思っていました。

しかし、時間割の都合か、教務関係の手違いか、よくわかりませんが、私の担当科目に500人ほどの学生が集まってしまいました。

まったくの想定外でした。
500人を超える授業と200人未満の授業では、話し方、進め方、教材や資料の準備、スライドのフォントの大きさ等など、色々な面で(私の場合は)異なります。
教務課の方も、開講してしまって仕方ないからとにかくやってください、とのこと。

その授業は、人気科目で年々受講生が増えたため複数開講にすことになったようで、その片割れ科目の担当を私がすることになったのでした。

当時の私は、引き出しも少なく、何年かかけて作った授業スタイルや資料をひな形にして作成した教材を元に、いわゆる自分らしい授業をしていました。

完全に、500人向けではない準備をしていました。

私の想定外かどうかは、受講生には関係ありません。
やるしかありません。

新しく、しかも複数開講の急きょ増やした科目だったからでしょうか。

教務課の対応も、後手後手という感じでした。
半期の授業が終わった頃に、その大学にお招きいただいた先生と話す機会があり、100人を超える授業ではTA(ティーチングアシスタント)を付けてもらえることや、その大学では○人以上の授業はしないことになっているとか、資料はポータルにアップして学生自身で印刷してくるように指示できるよ(今はどこでもこうなってきていますよね。)、とか聞きました。

何やねん!とにかく私は、教えてもらわなかったし、知らなかったし。
手引きみたいなやつに書いてたのかな。

そういうわけで。担当初年度は、授業が苦行でした。

まず、私は手作りの教材を授業ごとに渡すスタイルにしていたので、それからして大変でした。
毎回、講師控室・教務課のある建物から、台車に山盛りの資料を大教室のある別の建物までゴロゴロ押しながら出講です。

そして、それ以上の恐ろしい世界が大講義室内で展開されるのです。

自由すぎる大講義室…ここは野生の楽園か…?

切に願うのは。
授業を受けたくなければ欠席してください。
せめて、居眠りするか、おとなしく内職してください。

最近の学生は、授業を聞かなくても授業に出たがります。

授業に出る気がなくても、教室を待ち合わせ場所にします。
授業途中でも「おはよ~」と入室、「おはよ~」と朝の会話が始まります。

電話が鳴る、電話を取る。会話が始まる。

DSでゲームをしています。一応イヤホンしててくれますが…

私語が盛り上がりすぎて大爆笑が起こります。
もちろん、授業とは全く関係のない話題に花が咲いてしまうことはよくあります。

カシャ!の音に目をやると、イエーイ!
なんのためだか、集合写真撮影会がはじまっています。

「電話は外でしてください。」

「ゲームをするなら、今日のところは退室してください。」

「そこの、黄色衣服の女性と青い服の男性、その周りの人静かにしてください。」

写真撮影が始まった時は、ダメなんですが、気持ちが萎えすぎて授業を中断しました。

イライラしたり、カッカすると絶対うまくいきません。
注意はしますが、ちょっとマシになるくらいです。

どうしても態度が改善されない場合は、退室を指示しますが、反抗期の中学生みたいにふてくされ、こわい顔で私をニラミつけます。
いや、そういうのは私もみんなもいらないから。
私、生徒指導の先生じゃないし、キミも思春期の中学生じゃないでしょ?早く出ていこうよ。
心中の叫びむなしく、そういう学生に限って、びっくりするくらい出ていかない。

マメに注意をすれば『注意ばかりで授業が中断し不快である』
注意をしなければ『不適切な学生に指導をしないダメ講師である』
(授業アンケートより)
どちらにしても、熱心な学生にとっても不愉快な授業時間になり不満が出ます。

不正もあります。

手書きの授業内レポートを書かせれば、明らかに一人が数人分を書き上げて提出。
(せめて、筆跡と内容は工夫しようよ。)
そのいかつい男子学生たちを授業の後に呼び出して「不正していますね」と指摘をすると、「どこにそんな証拠があんねんや!」とスゴまれる始末。
以前提出した各学生のレポートを提示し、筆跡、内容の重複、本人たちに確認してもらいました。
「と言うわけで、単位を差し上げるわけにはいきません。これから授業を受けていただくのは自由です。」と告げるとチッ!と舌打ちして出ていきました。
…疲れました。

テストの時は、教職員の方に試験監督をお手伝いいただきますが、必ずカンニングする学生が出てきます。
O大は、カンニングのペナルティが重たいのでモメます。テスト中に。
それじゃあ、あからさなまなカンニングはやめようよ。
(見せ合う程度なら証拠がないので摘発はされません…)

噂ではカニングペーパーをブラの中に隠したり、飲み込んだりする学生もいるそうです。
その必死のエネルギーを少しでも講義に注げば単位ぐらい取れるだろうに。

私が準備し、イメージしていた授業を実施しようとした半年間でしたが、そこが敗因だったのでしょうね。

自分の大学生に対する願いや、修学に対する思い、理想を授業の下敷きにしても、伝わらない人たちはいるということです。

付け加えておきますが、O大学は偏差値50程度の大学です。
いわゆるFランと呼ばれている大学ではありません。

さて、教員としては分かれ道です。

  • 分かれ道① 科目修学に求められる理想を追求する。学生に積極的かつ真剣にコミットしていく。(授業レベルは維持+生徒指導)
  • 分かれ道② 学生の状況、レベルに合わせて、中学生風味の授業をする。(授業内容のレベルダウン的な工夫+生徒指導)
  • 分かれ道③ どんな状況も無視。講義形式の授業を淡々とする。(授業内容の割り切り+生徒指導無し)

最初①路線で私は玉砕しました。

2年目以降は、基本①寄りですが、大体の学生の理解度がわかってきたり、自分も対応のコツがわかってきたりして、少しずつ②寄りになってきました。

③は、強靭な精神力な方はできるのでしょうが、私には無理そうなのでチャレンジしていません。

数年間の葛藤と奮闘の末、いつの間にか授業がだいぶ落ち着いてくるようになりました。
そんな折に、授業アンケートに学生がこう書いてくれたことがあります。
「この受講人数の規模で、この程度の私語でおさまっているのは他の科目にはない。授業に力があるからだと思う。」
「社会人になってから、親になってから、また見直したいノートです。」

ちょっと上から目線かな(苦笑)。ただ、匿名の自由記述だったので、本当の気持ちを書いてくれたと受け取りました。
正直に、嬉しかったです。

興味や理解を促すために、イラストや図解を多用したり、平易な言葉でかみ砕いて説明したり、大学生に提供する資料としてはどうかと葛藤することもありましたが、私なりに伝えたい核となるエッセンスはぶれないように工夫してきた数年間でした。

どっちみち、学生たちは、卒業すれば1,2年で授業内容は忘れちゃうでしょう。
それなら、少しでも心に残る、役に立つ技術や知識をお伝えするために、楽しくわかりやすい工夫をするのも悪くはないかな。
特に、私が担当するのは、非常勤講師に任せてもいいような教養科目だしね。

学修や研究の本質を教え、学生を主体的に学べる人へと導くのは、演習科目などを担当される専任教員の仕事です。(たぶん)

私は私で、私の専門性の面白さを、わかる人にはたくさん、わからな人には少しだけでも伝えていけたらそれでいいんじゃないかな~と最近は思っています。

もうすぐ新学期が始まります。

新年度に新しく担当する授業は、また別の大学の、もう少し偏差値が低いと各予備校で評価されている(たぶんFラン系)大学です。

どのような学生の集団なのでしょうか。
前任者に話を聞くと、穏やかにしていれば、食ってかかる学生はいないようです。
まともにぶつかっても、心身ともに疲弊するのは目に見えます。
O大で学びました。

苦闘の日々のトラウマが、思わず私をググらせました。

新しく担当する授業が開講される私立K大学。
元気でやんちゃな学生がたくさんいるようです。
事前の情報によると受講生は300人以上になる予定だそうです。

SNSなどで大学名と自分の本名をさらし、Youtubeに『おでんツンツン男』のごとくのいたずら映像を公開している、でっかいタトゥー入りの学生がいました。

はぁ…

もしかすると、(生活指導的な)余分な作業にエネルギーを費やし、教えるべき事を十分に伝えられないと思うと暗い気持ちになってしまいます。


授業の報告は、またそのうちに…


↓「be動詞のおさらい」「小・中学校レベルの数学」…Fランク大学の驚くべき授業内容

週刊新潮 2017年 3/30 号 [雑誌]

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